これまでお話しした通り、『危機の20年』の著者であるE・H・カーについて、イギリス哲学界の巨人で20世紀最大の保守思想家の1人であるアーネスト・ゲルナーはこのように述べています。
「私自身が大学で習った経済学や哲学は全て絵空事のようだった。しかし、カーの知性はそんなことはなかった。彼は一般の学者たちとは一線を画し、人類の歴史や社会についての本質を決して無視しなかった」
つまり、カーは絵空事の学問が蔓延る世界で、ただ1人、絵空事ではなく現実の世界をよりよくするための政治経済理論を追求していたのです。
そして、E・H・カーの政治経済理論は、二つの世界大戦の間という他に例のない時代において、自ら国際政治の最前線で目の当たりにした、息遣いまで聞こえるような外交官としての生々しい稀有な経験から生まれた独自の理論でした。
そしてその政治経済理論を盾に、世界を平和に導くために、学会・政界に対し彼は人類に対し警告を続けましたが、あまりに時代に先行しすぎていたカーの理論は、決して高く評価されてきたとはいえません。
いやそれどころか人類は彼を今日まで無視してきました……。
なぜなら、彼は現実を誠実に見るという研究手法で、世の中を良くするために活動してきましたが、そんな彼の「現実を誠実に見る」という態度は、現実ではなく「財政破綻論」や「話し合えば戦争は解決する」という「絵空事や偽善」をベースに物事を考える政治家や学者には非常に都合の悪い存在だったのです。
そのため、イギリス哲学界や政界をはじめとして、人類はあろうことか「世界大戦が起こるカラクリ」を暴いた彼に、一斉に批判を浴びせかけたのです……。
事実、彼は自らの人生を閉じる際、「私は孤独で、深く、深く、不幸です」と言い残しています。
彼は私たちに世界大戦が起こるカラクリと、それに立ち向かう武器を授けてくれた恩人というべき存在なのに……。